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低アレルゲン化小麦粉

前回は小麦アレルギーについて解説しました。今回は、低アレルゲン化小麦粉の紹介をしたいと思います。
 
小麦アレルギーを引き起こすのは、小麦に含まれるタンパク質であることから、これを食品加工用のタンパク質分解酵素で分解すれば、小麦粉は低アレルゲン化するのではないかと考え、私たちの研究グループ(前任校である東京学芸大学教育学部)で実験を行いました。これは、特殊な操作のように感じ、少し違和感をもたれる方もいらっしゃるかも知れませんが、実は同じような考え方で作られたミルクアレルギー患児向けの「治療用特殊ミルク」が25年以上も前から市販され、実際に使用されているのです。
 
さて、小麦粉をタンパク質分解酵素で処理すると、予想通り低アレルゲン化に成功しました。ところが困ったことに、低アレルゲン化処理により、小麦粉を加工する上で重要な性質のいくつかが失われてしまいました。小麦粉に水を加えてこねると、ドウと呼ばれるかたまりができ、それが基本となってパンやパスタが作られます。これは、小麦粉に含まれる「グルテン」の大事な性質の一つです。困ったことというのは、小麦粉をタンパク質分解酵素で処理する低アレルゲン化工程で、加工上大事なグルテンが分解されてしまい、ドウが出来なくなってしまったことです。しかし、低アレルゲン化するためには、どうしてもグルテンを分解しなければなりません。というのは、前回お示ししましたように、患者さんの大部分はグルテンに反応してしまうのですから。
 
私たちが小麦粉の低アレルゲン化に成功したことを発表した直後は、「グルテンが分解されているのだから、パンなどの小麦製品は作れないだろう」「従って、実用化は難しいのではないか」という声が多く聞かれました。それにもめげず、当時の上司の渡辺道子教授(現 高崎健康福祉大学教授)が「絶対に小麦製品を作ってみせる」と、それこそ執念で、私たちは低アレルゲン化小麦粉の加工に取り組みました。結果的に、低アレルゲン化小麦粉が気体を保持する性質を保っていたことから、膨化食品(パンやウエハーズ)を作ることができました。また、主成分のデンプンが無傷で残存していて、加熱によってデンプンが糊化するため、その特性を利用して、パスタなどを製造することも可能でした。執念の勝利ですね。
 
これらの技術はいくつかの特許となり、現在では福岡県のオーム乳業(株)から低アレルゲン化小麦として、食品加工メーカーに原料供給され、いくつかの加工品が市販されています。「AG-cut」シリーズ(美多加堂)のビターチョコクッキーなどがその一例です。オーム乳業からも、低アレルゲン化ケーキが販売されています。
( 2004年 9月記)



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